特許情報をマーケティングに使う、いわゆる「特許マーケティング」という考え方が最近になって言われ始めている。ここでは、実際の会社を例にとって、具体的な「特許マーケティング」のやり方や分析の仕方について解説する。
売り上げ低迷に悩んでいる特殊フィルターメーカー(A社)の事例
A社は特殊なフィルターを製造開発している製造メーカーである。A社のフィルターは耐久性が高いために消耗品を販売することがない。そのため、業界である程度の販売が一巡すると需要が頭打ちとなり、最近では売上の伸び悩みが問題となっている。そこで、「特許マーケティング」の手法を用いて新たな市場を見出そうと考えた。
A社の出願推移からA社の特徴を知る
まず、A社の特許の出願推移について、縦軸にFI記号を、横軸に出願年をとってグラフとした。(図1)
図1より、A社は特許出願件数こそ少ないが、2000年からコンスタントにろ過機という分野において出願していることがわかる。つまり、A社の強みはろ過機にあると言える。しかし、2014~2017年には出願がなく、この期間は新しい開発テーマを模索していることが推測される。別な言い方をすると、今まで順調に開発を進めてきたが、今までと同じ延長線上では商品が売れなくなってきたため新たなテーマを探している期間と考えることができる。
多くの分類に分かれているろ過機の中でA社の特徴がわかる
A社の技術はろ過機に分類されているが、特許分類を見るとろ過機は以下の図のように非常に多くの分類がなされている。その中でA社の出願が分類されている箇所に赤丸で印をつけると以下のようになる。すなわち、「ろ過機中におけるろ過材の再生」「平担なものを積み重ねたろ過体」「渦巻状またはら旋状にまかれたろ過体」に多く分類されていることがわかった。(図2)
減少から横ばいに転じているろ過機の出願件数から新たな開発テーマの出現が示唆される
では、A社のビジネスであるろ過機がどのような業界か知るためにろ過機の分類に関する特許出願の件数推移をみてみた。(図3)
この図を見ると、2000年に400件近くあった出願件数が、2017年には200件弱と半分程度に減少している。しかし、2000年から2004年にかけて急減した出願件数はその後緩やかに減少しつつも200件弱程度で安定的に推移している。
通常、業界が完全に成熟化すると新しい研究開発は行われなくなるため、特許出願件数も非常に少なくなるが、年間200件程度の出願件数があるということはまだまだ新しい研究テーマがあるということを示唆ししている。
ついで、どのような企業がろ過機の分野に出願しているかを見てみた(図4)。
図4をみると、様々な企業がろ過機の分野に出願していることがわかる。出願人にはトヨタ自動車も名を連ねており、自動車業界の関心が高そうである。また、多くの企業の出願件数は2000年から2017年にかけて減少傾向だが、ヤマシンフィルタのように2017年にかけて出願件数が増加している企業もある(上図赤矢印)。おそらく、ヤマシンフィルタは何らかの新しい開発テーマを見出して研究しているのだろう。
ろ過機の技術的変遷から言えることは・・・
さて、ろ過機がどのような技術的な変遷を経ているかを見るために縦軸にFI記号を、横軸に出願年を取りグラフにしてみた。(図5)
図を見ると、ろ過機の出願件数が一番多く(縦軸一番上)、2000年から2017年にかけて緩やかに出願件数が減っていること以外には特に目立った変化を読み取ることはできない。この図からだと何か変化が起こっているかどうかわからなかった。
異なる切り口で見ると異なる現象が見えてくる
そこで、今度はFタームを縦軸にとり、横軸に出願年をとってグラフにしてみた。(図6)
図を見ると、累積での出願件数が一番多いのは「特殊ろ過機」(縦軸一番上)である。一方、2011年頃から「液体のろ過」(縦軸上から5番目)という分野の出願件数が増加しており、2017年には159件もの出願がある。このことから、ろ過機の業界では従来のろ過機ではない新たな技術テーマ(液体のろ過)が出てきていることがわかる。
このように、グラフの縦軸と横軸を様々な切り口で見ることにより、世の中で起こっている変化を知ることができる。
次回はA社の技術を活かせる他分野を見いだす方法について述べる。