以前、ウニの自動殻むき機についての相談を受けました。その会社はウニを購入して殻をむき、殻つきのまま高級料亭などに出す事業を営んでいます。ウニの殻むきは人海戦術であり、年間の人件費が数千万円かかっているため、自動機があれば導入したいとのことでした。そこで、特許マーケティングの手法を用いて現状の状況と開発の可能性について調査してみました。
1.市場調査
ウニの消費量は増加傾向
ウニの処理業者の状況は見当たらなかったのですが、殻付きウニの水揚げ量や流通金額のデータがありました。このデータをみると、2010年から2012年にかけて減少傾向ですが、2013~2015年にかけては水揚げ量も流通金額も増加傾向となっています。やはり、日本人はウニが大好きで寿司や料亭には欠かせない食材なのでしょう。
(農林水産省データを加工)
ウニの殻むき用の道具は存在する
ネットでみると、ウニの殻むき機として「ウニ割器ウニくん」や「MT ウニ割りパックリ」がヒットします。どちらも人手でウニの殻をむく道具ですね。しかし、ウニの殻むきを自動で行う機械を販売している会社は見当たりませんでした。そこで、特許情報を用いて調査をしてみました。
(アマゾン「ウニ割器 ウニくん BUN02」)
(アマゾン「MT ウニ割りパックリ」)
2. 特許調査(ウニ関連の発明)
ウニ関連の発明は海産物分野に含まれる(FI記号より)
ウニ関連の発明は海産物分野に含まれ、ウニ以外にもさまざまな製品が分類されています。図を見るとウニは海産物製品に直接ぶらさがっており、ウニ以外にナマコ、ホヤ、クラゲなどと一緒に分類されています。このように複数の製品が一つに分類されている場合は全体の出願件数が少ないためまとめられているのです。一方、スッポンは単独での分類となっており、スッポン関連の発明は多いと推測されます。スッポンは精力剤として重宝されているからでしょう。
(FI記号のまとめ)
Fタームではウニが単独で分類されている
より詳細な分類であるFタームではウニが単独で分類されており、多少は発明がありそうです。
(Fターム表の一部)
海産物製品(FI記号)×ウニ(Fターム)=125件
FI記号分類の海産物製品とFターム分類のウニを掛け合わせると125件ヒットしました。この検索は年度を定めずに行ったため1970年代からの結果です。図を見ると1984~1998年頃までの出願が多く、それ以外は散発的なことがわかります。
ウニの殻むき(脱殻)の発明は少数だが存在する
Fタームの分類で脱殻という分類がありました。脱殻を「海産物製品」と「ウニ」で絞り込むと5件の出願がありました。その中で、脱殻に関連する発明は3件のみでした。
自動機の発明は一つだけ
ⅰ)特開2015-146777 株式会社森機械製作所
「ウニ割り装置およびウニ割り方法」
一つ目の発明はウニを台の上において円盤カッターで横から切断する方式です。たしかに効率的かもしれません。
ⅱ)特開2010-29087 有限会社尾塚水産
「ウニ処理装置およびウニ処理方法」
ふたつ目の発明は上からウニの殻をえぐる方式です。ドリルのような感じでしょうか。
ⅲ)特開平7-194347 マリン・マシンズ・インコーポレイテッド
「生殖腺を引き出すためのウニの処理装置および方法」
3つめの発明はコンベヤにウニをのせて移動させ、カッターで横からウニをカットする方式です。この方式が一番自動機に近いでしょう。ただし、出願されたのが平成6年ですから、かなり古い特許といえます。
いずれの発明もウニの殻むきを効果的に行う発明ですが、市場で機械が売られているのは確認できませんでした。おそらく、ウニの脱殻の市場は大きくないためにコストが見合わないのかもしれません。しかし、工夫すれば自動ウニ殻むき機を製造することは可能と思われます。
そうした中、YouTubeで自動ウニの加工機をみつけました。(株)釧路内燃機製作所という釧路にある産業用機械を扱っている会社の製品です。ホームページにも「ウニ加工ウニ割りくん」が紹介されていました。
動画を見ると、ウニをコンベアに並べて搬送し、カッターで上部を切断する機械です。
うに殻割機は自ら開発するまでもなく、開発されていのです。ただし、いろいろと調査をしないと見つけられず、ものすごく売れている機械ではなさそうです。
(https://www.youtube.com/watch?v=rOseG23QlL4)
3. まとめ
斬新なアイデアでもかならず似た発想をする人はいる
人のアイデアは皆にています。たとえどんなに斬新と思われる事を考えたとしても、すでに誰かが似たことを考えている可能性が高いのです。そのため、困ったことや、何か新しいアイデアが生まれたら、まず特許を見ると参考になります。
似たようなことを考える人は必ずいて、類似の発明を見つけることができます。そして、自分の欲しいものとぴったりではない場合には、見つけた発明をさらに工夫してよりいいものを作るためのヒントにするのです。