2.失敗する商品開発に「共通」するもの
今まで多くの商品開発を見てきました。その中で成功する企業はそれぞれに成功要因がありますが、失敗する企業は非常に似通った共通項が3つあります。それは「浅い」「狭い」「ヒトマカセ(他人まかせ)」と言うことです。
「浅い」とは、市場を表面的にしか捉えていないということです。つまり、市場の理解が「浅い」ということです。
市場とは多様な顧客の集合体であり日々変化をしています。しかし、「浅い」ものの見方しかできない企業は、市場全体が「どういった動きをしているか」、「どの程度の規模があるのか」、「今後の成長性はどうか」など深く理解しようとしません。
単純に調査会社の資料とか新聞やネットでの情報だけを信じて「この市場は今後伸びるはずだから当社が参入すればきっと大きな売り上げが得られるだろう」などと考えて参入するのです。そして、多くの場合に根拠なく「当社であれば市場規模の1%くらいはシェアが取れるだろう」と考えます。しかし「1%」はおろか0.1%の売上さえあげられずに撤退に追い込まれることがほとんどです。
つまり「自分が開発する商品はどういう顧客がターゲットなのか」「そのターゲットとなる顧客のニーズや困っていることは何か」「当社から顧客に至るまでのルートはどのようなものがあるか」という視点で市場を大きくかつ深く理解する姿勢が不足している点です。
「狭い」企業の類型は二種類あります。一つは手早く儲けようとするため技術力が身につかずいつまでたっても低い技術力のままの場合。もう一つは、自社の技術力を過信してしまい、異なる分野や他社の技術力などを学ぼうとしない場合です。
どちらも自社の技術や商品のことしか頭になく、「他社の技術力や類似商品」については驚くほど何も知らないことが多いのです。
つまり「狭い」ためにある程度の技術の深さはあるのですが、周りをよく見ていないために、すでに類似技術や類似商品があるにも関わらず「この商品はオンリーワンだ」とばかりに開発に突進していきます。そして、特定の技術的な課題を近視眼的に考えて「これさえなんとかすれば素晴らしい商品が完成する」とばかりに盲目的に突き進んでしまいます。
このような企業は他社のアイデアを真似したり、他の専門家の意見を聞くという姿勢が乏しいのが特徴です。特に顧客が何を求めているかという視点が欠落するため、商品ができても顧客ニーズを満たさないという結果に陥りがちです。
そのため、新しい商品を発案して開発しても、他社と同じような商品となり差別化できずに開発し直しになるか時間切れ、資金切れで開発を諦めるか言う結果になってしまうのです。
すなわち、自社の技術・商品を客観的に眺め、他社との比較をしたときにどのポイントが差別化要因となるかを理解して、事業展開を考える視点が決定的に欠落しているのです。
「ヒトマカセ」は自分の頭で考えない企業です。そのような企業は他社から言われて開発はするものの、技術動向や市場動向などに無頓着に突き進み「あのお客のことを聞いていれば間違いない」とばかりに注力します。しかし、「これが欲しい」というお客の言うままに商品開発をしても市場から受け入れられるとは限りません。
結果として商品が開発できても開発を依頼してきた企業には多くの数量を売ることができず、また他の顧客への展開もできずに開発費の回収さえままならなくなるのです。
ここで述べた「浅い」「狭い」「ヒトマカセ」というのはそれぞれが独立しているわけではなく、「浅い」企業は多くの場合「狭く」「ヒトマカセ」な場合を多く見かけます。逆に市場を深く理解するには「広い」視点を保つ必要があるため「顧客志向」で商品開発をする傾向があります。
次の例は「浅くて」「狭い」会社において新商品開発ができなかった事例です。
B社は半導体メーカー向けに装置を製造・販売している会社でした。B社の製造する装置は大掛かりなもので、機械分野、電気分野、ソフトウエア分野など多くの技術を組み合わせて複雑な動きをするものでした。それだけの複雑な装置を開発できる中小企業はそれほど多くはありません。当然、多くの強みがありました。社長も自社の技術力には自信を持っていて、自社の技術力を活かしていろいろな分野に展開できると考えていました。
数年前はB社の調子も良く、利益も上がっていたので新たな新規事業を模索していました。半導体分野は「変動体」とも言われるように好不調の波が激しく、受注が来ない時には全く仕事がない状態になるために、社長としてはできれば内需型で、安定的な分野の新規事業を行いたいと考えていました。
そこで、新規事業を立ち上げるために新商品開発に取り組もうとして技術者や営業マンを十数名集めてミーティングを行い、新たな商品についてのアイデア出しを行いました。ところが、いくら会議を行っても具体的で可能性のありそうなアイデアが出てきませんでした。当時世の中で騒がれていた3Dプリンターをやろうとか、農業分野に進出しようという漠然としたものしか出てこなかったのです。
また、B社の社長が思い描いていた新規事業は、2〜3年以内に既存の事業を支えることができるくらいの規模のものを求めていました。当然、市場規模の小さい事業や売り上げ金額の小さい商品は排除されていったのです。さらに、最初こそ社長も新商品開発ミーティングに参加していましたが、数回後には飽きてしまったようでミーティングに出てこなくなり部下任せとなっていきました。やがて、既存の事業での改良装置の開発が忙しくなってくると、新商品開発への取り組みは熱が冷め、取りやめとなってしまったのです。
その後、B社は半導体事業のみをおこなっていたのですが、市況の悪化に伴い売上、利益が急減し非常に厳しい状態へと追い込まれてしまったのです。
B社が新商品の開発ができなかったのは実現性のある良いアイデアが出せなかったからですが、その理由は「浅い」「狭い」「ヒトマカセ」だったからです。
- 「社長は商品ができれば自然に売れていくと考え、市場調査をよく行わなかったこと」(浅い)
- 「営業力が弱く、広く世の中の情報を収集することができなかったこと」(狭い)
- 「社員に当事者意識がなく、社長がやれと行ったからいやいや集まってきた人がほとんどだったこと」(ヒトマカセ)
結局、新しい商品開発に際して「社長が熱心に取り組む姿勢」、「具体的に行動すること」、「社員が積極的に取り組む姿勢」などが不足していたことが致命的でした。