3.商品開発の成功要因
新しい商品を生み出し新分野で成功している企業があります。そのほとんどが、同じような成功要因を持っています。その成功要因は、ヒト、モノ(商品そのもの)、カネ、時間、情報、マーケットという6つの要因をうまく組合せることで成功の仕組みを回しているのです。
ヒトの成功要因とは、ある程度の権限を与えた優秀な専任者を担当として任命することです。
優秀な専任者とは自分の頭であれこれ考えながら進めることができる人です。指示待ち族では商品は完成しません。
また、ある程度の権限を与える必要があります。権限があれば自分自身で判断をして色々と試すこともができ、軌道修正も迅速に行えます。なにをするにもいちいちお伺いを立てるようでは時間とやる気が失せてしまいます。
そして、社長から正式に担当者として任命されることで責任感が生まれ、うまく進まない言い訳を封じる効果もあります。もちろん、100%の専任が難しい場合もある場合でも、少なくとも50%以上の時間を開発にあてなければ成功はおぼつきません。
商品開発は困難の連続です。困難に打ち勝てる優秀なヒトを用意して行わなければなりません。
モノの成功要因とは、これから作り上げようとする商品そのものが魅力的ということです。
魅力が高いとは、他社品と差別化できる優れた商品であり、かつ顧客が欲しがるということです。差別化ができて顧客が欲しがるものであれば売ることが容易になります。
当然ながら新商品は自社が作れるものでなければ意味がありません。技術的課題の解決が難しい商品の完成度をあげようとすると、結局完成できず残念な結果となります。難しい点は、自社で作れて、差別化ができ、顧客が欲しがる商品は何かを探すことです。技術力が高い会社であれば比較的容易に該当する商品を見つけることができますが、技術力が大してなくてもアイデア次第で魅力ある商品を見つけることは可能です。
また、100%自社で作れなくても、大学等の研究機関や他社と協力して商品の完成にこぎ着けられるのであれば問題ありません。むしろ、外部の力をうまく活用したほうが魅力ある商品を完成できることが多いのです。要はいかに良いパートナーを見つけるかが重要なのです。
繰り返しになりますが、開発する商品は他社と差別化できることが重要です。他社と差別化できない単なる二番煎じであればやる意味が無いのです。
商品開発に際しては、どのような商品を作り上げるか目標をしっかり定めて行わなければなりません。
カネの成功要因とは、ある程度の資金的余裕があり必要な投資ができることです。会社の業績が傾いてから新商品開発を始めても成功させることはたいへん難しくなります。
それは、魅力ある商品を研究や試作するための設備投資や研究投資ができないためです。また、早く商品化をして稼ごうと焦るあまり雑なモノづくりになるからです。例えば、十分な効果が得られないのに商品化を急いだり、顧客にニーズを無視した商品を販売したりするのです。
一方、資金的な余裕があれば集中して研究などを行うことが可能となります。必要であれば他社の技術を購入したり技術者を採用したりできるため質が高く、かつ短期間で商品の完成が可能となるのです。
商品開発に際しては、必要な資金を見積もり、しっかりとした資金を用意してから行うべきなのです。
時間の成功要因とは、比較的短期間に商品を完成させることです。
世の中には長い時間をかけて商品を完成させる企業がありますが、大抵うまく行きません。長い時間をかけなければ商品ができないのは、技術力がないか、商品そのものがよくわかっていないのです。
技術力がない会社が無理をして商品を作っても質の低い、魅力のない商品となります。そのような商品が成功する可能性はありません。
商品が分かっていないとは、最終的な仕様を詰めきれていない不完全な状態で作り始めることです。市場や顧客の情報に右往左往して、行ったり来たりを繰り返しつつ非効率な作業に陥り時間ばかりが過ぎ去っていくのです。
さらに、時間が立てば立つほど、当初想定していた状況が変化して市場が変化します。せっかく完成させても商品は時代遅れとなり誰も興味を示さなくなるのです。
商品開発は時間を定めて、いつまでにどの程度の商品を完成させるという目標を明確にして行わなければ成功しません。そのため、最初から高い目標を立てるのではなく、期間内にできることを定めて、一歩一歩進めていくことが肝要なのです。
情報の成功要因とは、情報の受信と発信を頻繁に行いながら世の中の動きに合わせていくことです。
情報の受信力が低い企業は、市場で何が求められているのかを知ることができません。また、時代の流れを読むこともできません。その結果、自社の思いだけでモノづくりを進めて、勘違いな商品を作りがちとなります。
また、情報の発信力のない企業は、せっかく面白い商品を完成させても誰にも知られずに埋もれていくことになります。特にモノづくりに力のある企業は、作ることに熱心になるあまり、それを市場に伝える努力を怠ってしまうことがあります。
商品開発で成功するためには情報の受信と発信の仕組みを整える必要があります。情報を適切に発信すれば何らかの反応があり、それらの情報を受信して軌道修正を繰り返しながら魅力ある商品へと導くことができるのです。
マーケットの成功要因とは、マーケットを見る力を養うことです。
つまり、ある程度の規模がありかつ成長しているが強い競合がいないマーケットを見出し、アクセスすることです。
なかでも成長性の高さは絶対的な要件になります。モチロン、成長性が高いと注目度も高いため競争も厳しくなりますが、衰退する市場には進出する意味はありません。「成長市場に絡め」とは昔からいわれている格言です。
そして、商品が完成したらある程度の収益を上げることができる程度の規模(顧客の数)がいなければなりません。
さらに、中小製造業のように規模の小さい会社が成功するためには、「強い企業とは戦わない」というのが原則です。強い企業と正面から戦うことは「労多くして功少なし」となることが多いのです。そこで、強い競合が参入してこないような規模の小さい、手間暇がかかる面倒くさい、何らかの理由で他社が入れないマーケットに参入するのです。しかし、ある程度の成長が見込めなければなりません。そういった市場のことをニッチマーケットといいます。
ではそのニッチマーケットをどのように見出せばよいのでしょうか?多くの場合に成長性の高い市場の周りにニッチマーケットが隠れていることが多いのです。成長している市場はたった一つの製品ではなく、様々な部品、材料、副資材をつかい、多くの工程を経て製造されるのです。そこで、自社が開発できる商品やサービスがどのように成長に絡めるかを考えて、適切な商品を見出していく作業が必要となるのです。
A社は新商品開発を行い新たな事業の立ち上げに成功しました。A社の主業務はリサイクル業であり、廃棄する電線の外側の被覆材(ポリエチレン)を引き剥がしてペレット化して販売していました。作業自体は簡単なものであり、たいした技術があるわけではありませんでしたがポリエチレンという樹脂を安く手に入れることができる強みが有りました。東北大震災後、電線の更新期間が長くなり原料の廃電線が手に入らなくなるなどの原因で業績が低迷したため新たな商品を考えました。
ちょうどその時ある商社からポリエチレンを板状にしたものを作れないかという打診があったのです。A社では加工する技術がなかったのですが、いい外注先(A社の顧客)を知っていたのでそこに加工を依頼して製造・販売を始めました。
最初は引き合いのあった商社だけの取引でしたが、やがて色々とつてを頼って拡販していきました。その際、新しい事業を立ち上げるということもあり、外部から社長の知り合いを呼んで専任で新規事業に当たらせました。結果としてはそれが上手く当たったのです。
当時は売上・利益ともに低迷していると言っても過去の蓄積があったために一人くらい専任で新規事業に当たらせる余裕がありました。また、その担当者も熱心に新規事業に取り組み顧客開拓を行ったのです。必要とあれば北海道から九州まで出張をして様々な顧客や代理店と交渉をしたり、展示会に積極的に出展し商品の知名度を広げていきました。
そのプラスチック製の板の業界は強力なライバルがいましたが、ほぼ独占状態だったこともあり非常に高い値段で商品を販売していました。そこに同等以上の品質の商品を安く供給していったためある程度シェアを取ることに成功したのです。やがて、色々と活動をしていると様々な方面から引き合いを受けることが多くなっていきました。その多くはあまり上手くいかない話だったのですが、いくつかは大きなビジネスに結びつけることができました。
A社は電線の被覆材を剥ぎ取る技術やポリエチレンをペレット化する技術などはありましたが、それ以外には大して見るべき技術力はありません。技術者もほとんどいないと言っていい状態です。そのため、ちょっと難しい商品を作ることができず、幾つかの案件は断念したこともありました。しかし、自社ができることを地道に行っていった結果、売上高を約4年かけて2億円まで伸ばすことに成功したのです。
A社が成功した要因としては、自社の強みであるポリエチレンを安く入手できるという立場を活かして、自社ができる範囲の新商品開発を行ったことと、外部の機会を上手く捉えたことに尽きます。タイミング的に市場がは小さいときに参入し、粘り強く活動することで徐々に大きくしていくことに成功しました。また、市場もだんだん成長していくことで、引き合いが増えていったことも成功要因でした。
A社の例はかなり運に恵まれましたが、運だけではなく以下の要因が成功への鍵となりました。
- 専任者をおき、自由に開発を任せたこと
- 他社品よりも性能の良い商品を顧客の求めに応じて完成できたこと
- 比較的資金余裕のあるうちに始めたこと
- できることから始めたため、短期間で商品開発ができたこと
- 専任者が積極的に動きながら市場の情報収集をしたり、展示会やホームページなので情報発信を行いながら商品の知名度を上げていったこと
- 市場が成長しており、既存商品との切り替えが上手く行えたこと
繰り返しとなりますが、商品開発の成功はヒト、モノ(商品そのもの)、カネ、時間、情報、マーケットという6つの要因をうまく組合せることなのです。